Go To トラブル キャンペーン?
さて、今月のありがとうトピックスでは前月の10万円給付金の話から派生して、最近巷で注目度の高い『Go To トラベルキャンペーン』について、考えてみましょう。国内旅行の代金を補助する観光需要喚起策である『Go To トラベルキャンペーン事業』自体の詳細については、観光庁の『Go To トラベル事業関連情報』をご参照いただくか、今すぐテレビをつければどこかの報道番組で取り上げてくれていると思うので、そちらを見てください。ありがとうトピックスでは、あくまでも投資家目線で『Go To』について考えてみたいと思います。
各種報道を見ておりますと、『Go Toトラベル』実施に対して賛否両論あると思いますが、どちらかというと感染拡大を助長しかねないといったネガティブな反応が多い様に思えます。賛成側のコメントとしては、経済を回さないと自殺者が増えるといったようなものが目につきます。こ~んな感じのことを毎日のように報道で見ていると、そもそも旅行関連業界の経済規模ってどのくらいかなという漠然とした疑問がわいてきたので、これを機に国内旅行・観光業界をザックリ分析してみましょう。
直近のデータでは、日本国内における内部観光消費は全体で約28兆円規模(2019年)であり、さらに観光業における就業者数は約648万人(2017年)と日本の就業者総数の9.6%を占めるに至っています。もし小学生に戻った気持ちで30人クラスで周りを見渡すと3人は観光関連就業者といったレベルなので、それなりに大きな業界になるようです。また、下図から分かるように、近年のインバウンド需要増で外国人による国内消費が業界全体をリードしてるのかなと思いきや、依然国内観光産業への貢献は日本人による消費がけん引している点が確認いただけると思います。
【日本国内における内部観光消費額と観光産業における就業者数の推移】
出所:観光庁より、ありがとう投信作成
以前日韓関係が冷え始めた頃に紹介したブログ、ありがとう39ツアー【こんなご時世だから対馬行ってみませんか?後編】の最後のスライドを2020年6月まで伸ばしてみると、衝撃的ですね。訪日外国人数が新型コロナウイルスのため消失しています。コロナもそうですが、日韓関係など国際情勢の影響をもろに受けるのがインバウンド需要です。観光業に携わるビジネスを評価するうえで、こういったリスクは念頭に入れておく必要があります。
【訪日外国人数の推移(月次)】
出所:ファクトセットより、ありがとう投信作成。2020年6月開示までの推移。
さて、話が少しインバウンドにそれましたが、観光消費が与える国内の他産業への波及効果も結構大きいようです。2017年の国内内部観光消費は約27兆円と推計されていますが、この観光消費が他産業へ与える影響まで考慮した効果(生産波及効果)は約55兆円と推計されています。雇用効果に至っては、波及効果まで含めた雇用誘発効果は472万人と推計されており、これは2017年の就業者数全体の7%に相当するため、これら波及効果分も含めると観光業の与える経済インパクトは相当大きなものになります。下図でも観られるように、特に航空輸送、鉄道旅客輸送、宿泊業、飲食サービスへの影響が目立っております。
【国内観光消費がもたらす国内経済波及効果の推移】
出所:国土交通省『旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究(2017)』より、ありがとう投信作成
【他産業への生産波及効果】
【他産業への付加価値効果】
【他産業への雇用効果】
出所:国土交通省『旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究(2017)』より、上位20産業を抽出してありがとう投信作成
『Go To トラベルキャンペーン事業』はこういった背景もあって、国内のホテルや旅館に対して恩恵がありそうなので、そこらへんの業界動向も見てみましょう。下図の様に日帰り旅行と宿泊旅行では単価がかなり違いますね。『Go To』 では連泊制限が無いので、旅行する側としてもとても助かる制度になっております。
【宿泊旅行単価と日帰り単価】
出所:観光庁より、ありがとう投信作成
【国内宿泊観光の回数及び宿泊数】
出所:観光庁より、ありがとう投信作成
宿泊施設の稼働率は・・・。見る影もありませんね。旅館、リゾートホテルでは8月にぴょんと稼働率が上がっているので、『Go To』は何が何でも8月には間に合わせたかったのでしょう。
【宿泊施設のタイプ別稼働率(月次推移)】
出所:観光庁より、ありがとう投信作成
さて、ザックリ観光業界を取り巻く環境を見てきましたが、一つ感じたことは、たとえ『Go To』が無かったとしても、もう少し日本人の国内旅行需要を丁寧に対応すべきではないのかなと感じました。そりゃ、少子高齢化、人口減少で地方に成長産業がとぼしい中、地方の観光資源を生かしインバウンドによる外需で稼ぐスキームを促進するのは当然の流れだと思いますが、最初の図にもあったように、日本人による消費額が外国人の消費額の数倍もあるので、日本人による旅行需要をないがしろにするようでは、国内旅行・観光産業の持続的な成長は見込めないでしょう。
私の知り合いの外国人や、米国パスポートを持った日本人の知人がよく使っている、新幹線乗り放題キャンペーンや、繁忙期でも激安の外国人用国内線航空券など、訪日外国人優遇のキャンペーンはコロナ前からたくさんございます。こんなキャンペーン知っちゃうと、日本人が正規運賃で国内旅行すること自体がアホらしくなってきますよね~♫
●JR:Japan Rail Pass
出所:会社ホームページより、抜粋
●ANA:ANA Experience JAPAN Fare
出所:会社ホームページより、抜粋
●JAL:JAL Japan Explorer Pass
出所:会社ホームページより、抜粋
私と同様、離島に頻繁に訪問される方なら、これらの外国人用キャンペーンがどれだけ安いかわかっていただけるはずです。10万円給付はフリーランチ?でも話したように、世の中にはフリーランチなんてございません。誰かが払うことになります。外国人のためにアホみたいに高いフィーを払わされるのだけは勘弁してほしいものです。
出所:会社資料ホームページより、抜粋
前回も同様の図を乗せましたが、『Go To』は1次補正の一部で、約1.7兆円計上されており、数千億円規模の事務委託費を差し引いても、日本の人口1億2千万人で単純に割ってあげると、国民1人当たり1万円を余裕で超えてくる額になります。こんなご時世では皆が皆旅行に行けるわけでもございませんし、連泊・利用回数の制限が無いとなると、結局このキャンペーンから恩恵を受けるのは一部の高所得者層になるのかもしれません。色々と問題点が指摘されているキャンペーンですが、No More トラブルでお願いしたいものです。
出所:財務省『新型コロナウイルス感染症に係る対応について』より、抜粋
参考までに旅行・観光関連銘柄の株価の推移になります。当ファンド保有銘柄では旅行・観光業界の代表投資銘柄としてスペインのアマデウスITグループがあります。旅行関連銘柄ということで足元大きく調整しておりますが、長期的に見て世界的な旅行・航空需要増のメガトレンドが終わったとは思えません。そんな状況でこの業界の長期での成長を固定費の重い航空産業や鉄道輸送産業で取りに行くのではなく、固定費の薄い旅行IT銘柄であるアマデウスITグループで取りに行くという話です。お忘れの方は以前のブログをご参照ください。
景気サイクルに影響を受けにくい質の高さとは?:アマデウス IT グループ(スペイン銘柄)<月次レポート2017年7月より>
【株価推移:アマデウス以外当ファンドでは保有していません】
出所:ファクトセットより、ありがとう投信作成。株価は2012年12月31日を100として指数化、2020年7月16日までの推移。外貨建ての株価・指数はすべて日次で邦貨換算した日本円ベース。
【運輸セクターについてのマトメ】
●運輸セクター(鉄道等)については下記の過去ブログをご参照ください。
ありがとう39ランキング【世界は広いよ!:時価総額比 運輸セクター編】 前編
●運輸セクター(エアライン等)については下記の過去ブログをご参照ください。
ありがとう39ランキング【世界は広いよ!:時価総額比 運輸セクター編】 後編
【39ツアー過去分(いわゆるGo To 39 キャンペーン)】
●39ツアー【慶良間諸島①:渡嘉敷島でのご宿泊は民宿39で464939! 】
●39ツアー【慶良間諸島③:座間味島でとうとう無人島に流れ着く 】
●39ツアー【こんなご時世だから対馬行ってみませんか?前編】
●39ツアー【こんなご時世だから対馬行ってみませんか?後編】
●39ツアー【平成最後の親孝行で鹿児島39ごわした! 前編】
●39ツアー【平成最後の親孝行で鹿児島39ごわした! 後編】
●39ツアー【3連休にどうですか?推定樹齢7000年超えの縄文杉にこんにちは!】
●39ツアー【夏休みにどうですか?お子さんも大喜び!お魚天国ジョン万ビーチ】
●39ツアー【夏休みにどうですか?行ってみよう!癒されよう!うさぎ島】
39!
ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
◆記載内容について: 資料に記載されている個別の銘柄・企業については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。
◆株価指数について:記載されている各国・地域市場の指数は特別注記が無い場合は以下の指数を使用しています。
【日本株】→FactSet Market Indices Japan 配当込み(税引き前配当再投資)
【世界株】→FactSet Market Indices World 配当込み(税引き前配当再投資)
【米国株】→FactSet Market Indices US 配当込み(税引き前配当再投資)
【欧州株】→FactSet Market Indices Europe 配当込み(税引き前配当再投資)
【新興国株】→FactSet Market Indices Emerging 配当込み(税引き前配当再投資)
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