ますます内向きになる国
さて、今年一番のビックイベントである米大統領選挙は従前に大接戦になるとの国内報道がある中、すんなりとトランプ大統領の勝利で着地しました。私は当日YouTubeでトランプ氏寄りの米国メディアと反対のメディア両方のライブ配信を同時に聞いていましたが、トランプ氏寄りのメディアでは日本時間の夕方ごろには同氏の勝利を報道していました。他のメディアは『まだまだ激先州の状況がわからない』と繰り返していましたが、どう見てもトランプ氏が優勢だったので、早めに退社させていただき、子供達のお迎えに対応できたので鮮明に覚えています。
トランプ大統領の返り咲きは米国民の既成政治に対する不満と不信の結果だったのでしょう。そういった国民の声に応えるべく、トランプ大統領は『米国第一主義』の旗のもと、移民対策の強化、米国内産業に有利になるような経済政策を粛々とこなしていくことでしょう。世界の警察だった米国の役割は終わり、ヒト・モノ・カネ・情報など全てあつまる米国でさえ、自国内の状況を優先しないといけないぐらい鬼気迫った状況なのかもしれません。このままだと、少しわがままだけど、困ったときには頼りになっていたアメリカさんもドンドン内向きになっていきそうですね。
【バイデン大統領は国内・海外政策どちらに焦点を当てるべきか?】
国内政策:83%
海外政策:14%
出所:Pew Research Centerより、一部抜粋
さて、そんな内向きの米国事情をみていると、『アメリカさん大丈夫か!』という気持ちになるかもしれませんが、最近私は日本の方がより内向きになっている印象を受けます。例えば下図にあるように、パスポート保有率の推移などをみても、日本の内向き傾向を示唆しているように思えます。コロナ禍前のパスポート保有率は24%程度だったのがみるみるうちに下落し、コロナ禍後では17%程度まで低下しています。コロナ禍で海外との往来が途絶えていたので、保有率の低下自体には驚きませんが、コロナ禍が終わっても低迷している点は憂慮すべきでしょう。さらに図では、おおざっぱに為替の推移も示してみましたが、円安による渡航コスト増も、足かせになっているようにみえますね。
【パスポート保有率とドル円相場の推移】
出所:一般旅券有効旅券数(外務省)人口(総務省)より、ありがとう投信作成
パスポート保有率低下の原因については、上述したようなコロナ禍の一過性や為替要因で海外渡航が割高になっただけではなく、人口動態による継続的な影響も大きいと考えています。特に最近では若い世代の海外離れが進んでいる印象を受けます。例えば大学の学生と話していても、卒業旅行はコスパのいい国内で済ますとか、留学については海外は物騒で行きたくないなどネガティブな印象を持っている子も多いようです。確かに、短い時間軸で考えると海外旅行や海外留学は大きな出費を伴うので一見コスパが悪いようにみえますが、ひょっとしたら人生を変える出会いや自分が外国人になってみて気づくこともあるかもしれませんので、長期でみたらむしろコスパが良いと私は考えています。よって、自分の教え子たちにも1年でもいいから耳が英語に慣れるぐらいの期間は多少無理してでも留学するようにアドバイスをしてきました。かく言うそんな私も20年くらい前に大学の交換留学プログラムでアメリカとカナダへ留学させていただいた背景がございます。板前修業とアルバイトで貯めた資金では到底留学なんてできなかったので、大学から奨学金の給付を受けて、何とか留学させていただいたものです。一方、現在はどうでしょうか?北米の大学の授業料は20年前の当時とくらべものにならないくらい上昇しておりますし、寮やシェアハウスなどの賃料、生活費も高騰しているので、日本の物価連動程度にしか増えない奨学金をいくらいただいても海外の物価にcatch upするのは到底不可能でしょう。また、上述したように足元の円安傾向もコスト増に追い打ちをかけることでしょう。
別に日本は名目GDPベースで世界第5位の経済大国(2025年見通しベースで米国、中国、ドイツ、インドの次)だからわざわざ英語を学び海外の方のご機嫌をうかがわなくてもいいのでは?と思われるかもしれませんが、その順位が続けざまに沈んできていること自体が示すように、今後世界における日本のプレゼンスはさらに低下していくでしょう。このように国内経済が収縮していくなか、いかに外需を取り込んでいくかが重要なのは言うまでもないでしょう。その点、天然資源の少ない日本は、人材だけで勝負することが今まで以上に重要になるはずなので、じゃんじゃん外貨を稼げる人材を育てる必要があると思いますが、育てる方の教育もできていないので周回遅れ感がハンパないですね~
以前ブログで紹介したように、日本の主要産業で外貨を稼げそうな産業は自動車とインバウンドぐらいです。自動車の輸出については、冒頭申し上げましたように、世界最大の消費国である米国が内向きになり、同国で販売するためには製造工程も現地生産にして、雇用を生んでMake America Great Again しろ!と言っているわけですから、日本メーカーは工場の移転による現地生産比率をさらに高めることでしょう。そうなった場合、英語を話せない新卒を一括採用し、カネと時間をかけて教育し海外に派遣するより、多少ドルベースでの給与が割高でも現地採用した方が早いですし、現地政府にとっても雇用が生まれてwin-win だと考えられます。しかし、これではますます日本国内の雇用は硬直化し、長期的に付加価値の高い仕事は海外へという流れになりかねません。
一方、もう一つの稼ぎ頭であるインバウンド関連については、現在の京都の状況を見れば明らかで観光資源自体にも限界があるので、過度な期待をすべきではないと思います。雇用環境の観点から見ても、単純に人口動態起因の人手不足による需要の取りこぼしも大きいことでしょう。そもそも外国人相手の仕事なので、働く方も多言語に対応できる外国人を雇う傾向にあるようです。さらに、外資企業も日本国内のインバウンド需要の受け皿になってシェアを広げています。ラグジュアリーホテルなんてまさにそうですよね。そういった付加価値の高いところだけ外国資本や外国人労働者にとられてしまうと、残された日本人は労働集約的な仕事に...となってしまうのかもしれません。なんとなく負のスパイラルに陥っているように感じるのは私だけでしょうか?このスパイラルは、過去の日本人が戦略的な視点を持たず、次の世代に長期投資をしてこなかったツケなので、そう簡単には変えられないし、これから変えるとしても失われた30年以上に長い時間がかかることでしょう。そういった意味では、当ファンドのように成長余力のある海外株式を中心に資産形成をし、金融所得の国際分散化を図るのは合理的だと思うのですが...あまり暗い話をしちゃうと怒られちゃいますかね。
【日本企業の海外生産・売上比率と日本株の推移】
出所:ファクトセット、国際協力銀行より、ありがとう投信作成
最後に、パスポート保有率に少し話を戻して終わらせてください。今の世の中YouTubeがあるから海外に行かなくてもいろんな国や地域のことが動画で学べる・体験できるので、わざわざ留学しなくてもいいという考え方があるようです。コスパの観点からメタバース(仮想空間)での留学というサービスすら出てきているようです。ますますデジタル赤字が拡大しそうですね。留学する意味はなにも語学の習得だけではありません。自分がマイノリティーとして差別されてみたり、外からガラパゴス的な日本を見てみたり、限られた資金でやりくりしてみるなど、得られる体験はリアルpriceless だと思います。資金面の問題で留学をあきらめるようなことがあるのであれば、日本の未来にとって大きな機会損失になり続けるでしょう。一方、他の年齢層の事情も頭の体操までに考えてみると...高齢者層に大人気の日本一周豪華客船ツアーで一瞬チェジュ島に寄港するからパスポートとらないとね♪と人口の多い高齢者層がパスポートを申請してパスポート保有率が増加に転じるようだと、いよいよもって世の中おかしくなっていく気がしますね~。最後に現役世代は令和の五公五民環境下で手取りが細る中、こんな国に見切りをつけて海外に逃散してもよさそうですが、言語の壁なのか、飼いならされているのか、ダブルケアラーになっているのか、逃散する気力すら残ってないのかもしれませんね...パスポートを取得するための手続きの時間すらもったいないかも...
米国第一主義を掲げ内向きになっている米国をどうこう言う暇があったら、日本国内の内向き姿勢を変えて、アメリカンドリームにチャレンジする若者達を増やしたいものです。こういった長期投資ができる日本人はどのくらい残っているのでしょうか...
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ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
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