持続可能な自転車操業
先日、出張で日本に来ていた中国人の友人と話をする機会がありました。どうやら彼が務めている会社の資金繰りが滞っており、自転車操業におちいっているとのことでした。そんな仕事の話ばかりだと暗くなっちゃうので、私生活についてもお互いの近況をいろいろcatch upしていると...いま中国ではサイクリングが流行っているらしく、友人も10万円近くするロードバイクを買い、週末100キロ近く走っているそうです。『ウィークデイもウィークエンドも毎日自転車操業だよ』と流暢な日本語で言って、笑っていました。お~さすが、苦境の中にありながらも、なかなか面白いこと言うじゃん!という感じで楽しい時間を過ごしました。
はい、おしまい。じゃ、ありがとうトピックスにならないので、もうすこし話を広げてみましょう。ということで、今回は究極の『自転車操業』についてふれてみたいと思います。自転車操業とは、自転車は走っている間は倒れないが止まると倒れてしまうことに例えた造語だそうです。借金の返済のために借金している個人・企業をリアル世界ではあまりお目にかかる機会はありませんが、ドラマや映画などで追い詰められていく方々はよく見かけますね。他人事だとしてもドキドキ・ハラハラしちゃいます。自分が自転車操業状態になったら...怖くて想像すらできません。
そんな一見異世界の出来事のように思われる自転車操業ですが、実は身近なところでも起こっています。自転車操業は何も個人や企業だけではありません。先月、財務省が『国の財務書類(2022年度)』を公表しました。この書類を難しく説明すると『国全体の資産や負債などのストックの状況、費用や財源などのフローの状況といった財務状況を一覧でわかりやすく開示する観点から、企業会計の考え方及び手法(発生主義、複式簿記)を参考として作成されているもの』になります。簡単に言うと企業会計のルールに沿って無理やり国の財務諸表を作り、日本という国の財政状況をまとめた書類になります。国の財政状況については楽観的な論調と悲観的な論調があり、どちらが正しいかは結論が出ていませんが、下図の債務超過額(資産と負債の差額)の規模を見ていると、破綻しないか心配になりますね~。とはいえ、企業でもそうですが、債務超過=倒産・破綻ではございません。問題は資金繰りが回らなくなったときで、たいていの場合不渡りを出した時点で信用を失い、倒産・破綻します。ヤミ金から借金しまくって身の丈に合わない超高級自転車を買ったとしても、ペダルを漕いで車輪が回って、追いかけてくるヤミ金から逃げきれる間は大丈夫ということです。
国のバランスシートのイメージ図
出所:財務省より、ありがとう投信作成
下図を見ていただくと、先ほど国のバランスシートで見た債務超過額はほぼ特例国債(赤字国債)残高と同じ水準で推移しています。税収などの財源で賄えない国の業務費用(社会保障関係費や補助金・交付金など)を赤字国債で賄えば、その赤字が負債として、つまり債務超過額として積み上がっていくことになります。財務省はこの資産と負債の差額を『概念的には、将来への負担の先送りである特例国債の残高に近いものとなります。』と説明しています。国債を発行して、長期的に国民が使用し富に繋がりそうな道路などのインフラに投資するのであれば、将来への負担ではなく成長の源泉とでも言えると思いますが、足元の費用(社会保障関連費)などが人口動態要因で大きくなりすぎて税収で賄えないから赤字国債で補填だね!じゃ、資金繰りが回らなくなって破綻コースまっしぐらな気がしますね。このままじゃ自転車が止まっちゃう~
国の資産・負債差額(≒債務超過額)の推移
出所:財務省より、一部抜粋
加えて、償還スケジュールも見てみると償還期限の近い残高が多い点も気になりますね。例えば同じ100万円の借金でも、返済期限が来週末か1年後かでは、返済のアプローチは異なりますよね。償還期限が近いとはそういうことです。資金繰り回るのかな...不安になりますよね~。自転車的に解説するのであれば、地図を見る限りでは道の先には青く輝く海があるはずなのに、目の前に心臓破りの坂があり、ペダルが重くなるイメージです。とりあえずこの坂を越えないと...
国債償還のスケジュール
出所:財務省より、一部抜粋
もうダメだ!と思った皆さん...安心してください、借り換えできますよ。日本円を無尽蔵に刷れるチート系あしながおじさん的存在の日本銀行様がほぼ財政ファイナンスしてくれるので資金繰りについては問題ございません。例えて言うのであれば、日銀アシスト付き自転車操業でしょうか。最近ではペダルを漕がなくてもほぼ電動で動く『違法な電動アシスト自転車』が増えてきているようです。私も先日会社近くの歩道を歩いていたところ危うく『違法な電動アシスト自転車』にぶつかるところで、ヒヤッとしました。かわいい子供達との思い出が走馬灯のように脳裏に浮かびました。アシストぐらいの電動であれば子供達の送り迎えにも役立って有難いものですが、電動アシストなしじゃ乗れないよってなったら問題ですよね。現在の国の財政状況を取り巻く環境も同じようなものかもしれません。
結局、国の財政状況は企業のそれと異なるので、日本という国が財政破綻するかどうかはわかりませんが、この一連の話から学べることがあるとすれば、まず個人・企業・国どんなレベルであっても資金繰りは必要なことです。しかし、資金繰り自体が個人・企業・国の存在する目的ではないという事も忘れてはいけません。自転車マニアを除き、多くの人にとって自転車はあくまでも移動手段であり、自転車が動くのは当たり前で、重要なことはどこに行くか、何を運ぶかだと思います。これは資産形成においても同様で、新NISA制度を使わないと損するからとか、株価が上がっているようだからと何かに追われて投資を始めても長続きしません。自分で資産形成の最終的なゴールを決め、ゴールに向かって上り坂でも下り坂でも淡々とペダルを漕ぐのが一番の近道ではないでしょうか。
最後になりますが、冒頭話した友人は苦学されて奨学金を貰い来日し、日本の大学で学び、就職して今があります。たとえ今勤めている会社が倒産したとしても、彼のように知恵とバイタリティーがあれば自国に限らずどんな国でも働けることでしょう。こういったたくましい若者を育てるためなら赤字国債を発行したとしてもアシストし甲斐がありそうですね。残念ながら、昨年政府が発表した『異次元の少子化対策』の内容を見ていると、現状維持すら諦めている様子です。資産形成は新NISA導入で自助努力が決定しましたが、どうやら子育ても自助努力決定のようですね。
39!
ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
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