帳簿も申告もDIY!:Intuit(米国)
2021年05月25日(火)
数年前、とある離島の民宿でゆんたくしていたところ、たまたま一緒になったお姉様から『あんた仕事何してるの?』と聞かれました。ファンドマネージャーしてますなんて真面目に答えたら、『あら、この人カタギじゃないのね』と誤解されそうだったので、私の副業の中で最もカタギレベルの高そうな大学講師を選び、『大学で会計を教えております』と答えました。そうしたら、お姉さまから『あら、最近の大学はレジ打ちの仕方も教えるのね』とリアクションいただきました。『まあ、そんなところです。ちゃんとおつとめ品の割引を忘れないように指差し確認するよう、生徒に全力で教えております』と話を合わせておきました。一見変な会話ですが、ある意味的を得ているような気がして、今でも覚えている次第でございます。
つまり、会計なんてそもそも学問である必要がないのではということです。本日紹介する厳選投資銘柄の会社名のIntuitには『~を直感する』といった意味があります。一見難しそうな会計ルールですが、それを直感的に理解して使える様にする気まんまんのネーミングです。自分で経理もしないといけない中小企業の経営者にとって、会計を学ぶことが本業ではないので、税理士や会計士に経理業務を委託することが多かったと思いますが、Intuitの会計ソフトはその業界の当たり前に一石を投じたのでしょう・・・実はIntuitは以前SaaS企業動向について書いたブログの中でも紹介していますので、併せてご参照ください。
→ありがとう39ランキング【テクノロジーサービスセクター:②クラウドSaaS、ソフトウェア】
さて前置きが長くなりましたが、同社の売上構成から事業内容をサクッと把握しましょう。同社の事業は大きく3つのセグメントから成っており、特に①中小企業向け税務・会計ソフト(QuickBooks)を提供している中小企業セグメントと②消費者向け確定申告・資産管理ソフト(TurboTax)を提供している消費者セグメントの2本柱で売り上げのほとんどを占めています。残りの6%は③税理士/会計士向け会計ソフトサービスの戦略的パートナーセグメントになっています。
【セグメント別売上高構成割合】
出所:会社資料より、ありがとう投信作成
最初に最も大きな収入源である中小企業セグメントのQuickBooksについて見てみましょう。下記図でもわかるように、毎月課金型のサブスクリプションモデルを中心に堅調に成長していますね。
出所:会社資料より、抜粋
下記図が示すように、インストールベースのソフトウェアから始まり、その後Webベースの時代や、モバイル・クラウドベースの時代が来ると、時代のニーズにこたえて、変化を遂げてきました。まさにチャレンジの歴史ですね。ガラパゴスの日本企業では考えられないスピード感でしょう。チャレンジした甲斐あって、業績と株価もなんだかんだ言って右肩上がりに上昇しています。
出所:会社資料より、抜粋
次に、売上二本柱のもう一本消費者セグメントも見てみましょう。下記図では、米国内の確定申告数を申告元別に時系列で表しています。過去10年でのTurboTaxの目覚ましい成長が確認できると思います。2010年度では全体の20%程度のシェアだったところから、2020年度では30%まで成長しています。日本の確定申告でも最近は会計ソフトや国税庁のサイトを使うと簡単にできるようになっていますよね。この点は、以前のブログ『ふるさと納税に、ありがとう』でも言及したので、興味のある方はそちらをご参照ください。
出所:会社資料より、抜粋
TurboTaxでもちろんフリーバージョンございます。
出所:会社HPより、抜粋
最近だと、ロビンフッド効果(コロナ禍で株式投資を始めた個人が急増)もあり、確定申告する必要のある人が増えたので、同社も抜け目なくRobinhoodユーザーがTurboTax使ったら20ドル割引get!コラボをしております。そもそも、コロナ禍で税理士・会計士と飯でも食いながら、悠長に打ち合わせなんてできなくなってますから、前述したQuickBooksもTurboTax同様、コロナ禍で追い風が吹いているのでしょう。
出所:会社HPより、抜粋
さらに、同社は昨年末にフィンテック企業Credit Karmaの買収を完了しており、今まで紹介してきたQuickBooksやTurboTaxに限らず、さらなるサービスの拡充と顧客層拡大を目論んでいます。Credit Karmaは米国、カナダ、英国の1億人以上の消費者に信用スコア情報を無料で提供し、これを活用して最適なクレジットカードや各種ローン/保険(自動車、住宅等)を紹介するサービスを通じて金融機関から手数料収入を得ています。買収したCredit Karmaの膨大な顧客基盤にIntuitが有している確定申告データ分析能力やAI技術を加えることで、消費者が自らの財務状況を理解したり改善したりするためのアシスタント機能を高められると同社は考えており、一人ひとりの消費者の状況に応じた包括的な金融アシスタントプラットフォームを提供していく狙いがあるようです。
【買収発表時の資料ではグローバル消費者TAM(総需要)を倍増するシナリオ】
出所:会社資料より、抜粋
因みに、Credit KarmaはTurboTaxと競合する税務事業も運営していましたが、こちらはSquareが買収したようです。Squareも当ファンドでは保有していますので、参考までに言及した過去ブログを下に貼っておきます。
→ありがとう39ランキング【テクノロジーサービスセクター:③決済サービス、FinTech】
→ブラジルの電子決済なら任せて39!:StoneCo(ブラジル)
『銀行業は必要でも、銀行は必要じゃ~ない』とカネ持ちの誰かが言ってましたね・・・Intuitも今回のフィンテック企業買収などを通して、銀行業へすそ野を広げていくのでしょう。
出所:金融庁総務企画局説明資料より、抜粋
一応参考までに長期の株価推移を見てみましょう。う~ん。直感的に大したもんだと理解できるパフォーマンスですね。
【上場以来の株価推移】
出所:ファクトセットより、ありがとう投信作成。株価と指数は1993年3月12日を1として指数化、2021年5月21日までの推移。外貨建ての株価と指数はすべて日次で邦貨換算した日本円ベース
ところで、私の副業で経営している会社の帳簿作成にfreeeというIntuitの日本版みたいな会社のクラウドベースの会計ソフトを使っているのですが、帳簿を作るところまでで、法人税の申告書作成まではできないというなかなか渋いサービス内容でした。しかし、最近法人税申告機能が追加されて、大変便利になりました。むしろなんで今まで申告機能が公開されてなかったのか?の話をするといろんな人に怒られそうなので、やめておきますが、こちらの例のように大抵のことがDIYできる世の中になっていくのでしょう。私が大学で教えている生徒達の今後は大丈夫でしょうか?実務経験の無い教授から、複式簿記の歴史とありがたさを丁寧に教えてもらうより、QuickBooksなどの会計ソフトをいじってみた方がためになると思いますが・・・そういう授業はいまだに見当たりません。そういえば以前の厳選投資銘柄紹介ブログで言及した自動化可能性が高い職業の上位に経理事務員なんてありましたね・・・よく見るとレジ係なんてのもありますね・・・冒頭の話的には会計系全滅といったところでしょうか・・・
【自動化可能性が最も高い職業 】
出所:稼ぐスマートメーターでスマートシティでございます♪:Itron(米国)より
39!
ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
◆記載内容について: 資料に記載されている個別の銘柄・企業については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。
◆株価指数について:記載されている各国・地域市場の指数は特別注記が無い場合は以下の指数を使用しています。
【日本株】→FactSet Market Indices Japan 配当込み(税引き前配当再投資)
【世界株】→FactSet Market Indices World 配当込み(税引き前配当再投資)
【米国株】→FactSet Market Indices US 配当込み(税引き前配当再投資)
【欧州株】→FactSet Market Indices Europe 配当込み(税引き前配当再投資)
【新興国株】→FactSet Market Indices Emerging 配当込み(税引き前配当再投資)
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