ラストワンマイルを支える小さな巨人:Shyft Group(米国)
2021年09月24日(金)
以前、私の子供が『じどうしゃ』に興味津々だとお話したことがありました。そこからいくぶん脳みそが発達したようで、今では『じどうしゃ』の中でも『働く車』にハマっております。散歩に行っても、『バス!清掃車!消防車!パネルバン!ショベルカー!フォークリフト!』みたいに、現物を見るたびに叫んでいます。毎日そんなのを聞いていると、そういえば投資先に商用車を製造・販売している銘柄あったよね?と思い出しました。そんなこんなで、今月の厳選投資銘柄紹介は北米の商用車メーカー大手の1社で、運送会社向けに配送トラックやトレーラーを製造・販売、さらにはRVなど特殊車両向けのシャーシや車体なども手掛ける北米の小型銘柄Shyft Groupを紹介させていただきます!なお、商用車メーカーと言っても、完成車メーカーではなく、厳密には完成車メーカーの生産車に特殊部品や装置を取付けたり、顧客のニーズを聞き設計し、車体やシャーシに改造を加える事業がメインの会社になります。
最初に、同社の売上高構成をみて事業内容をザックリ把握してみましょう。下図の円グラフが示すように、『業務用運搬車両』事業が同社売上高のうち3/4近くを占めています。残りは『特殊車両』事業からの貢献になっています。
【事業別の売上高構成割合】
2020年
出所:会社資料より、ありがとう投信作成
まず、マジョリティーの『業務用運搬車両』事業について深堀してみましょう。そもそも業務用運搬車両ってなんすか?と思われることでしょう。簡単です。下記写真の様ないわゆるWalk-in Vanです。米国だとよくUPSとかFedExとかが使っている配送トラックのイメージです。私も米国滞在中によくお世話になりました・・・。下図の円グラフでは同社ブランドの1つであるUtilimasterのマーケットシェアを示していますが、一部のクラスでは100%独占、それ以外でも比較的高いシュアを有している点がご確認いただけると思います。さらに、すべてのクラスで、化石燃料以外のオプションがあるのも環境配慮がmustな現代においてはありがたいですね~。また、同社の小型トラックは他社比で、比較的積載量が大きく、低燃費かつ低コストで管理できる点などが競争力の源泉になっているようです。
出所:会社資料より、一部抜粋
さらに、業務用運搬車両事業の顧客は下記の様に様々で、政府系や、公益セクター、配達業、リネンやランドリー、コカ・コーラなどの食品関連と多岐にわたります。その顧客のニッチなニーズに耳を傾けて、バンの内装などをカスタマイズして販売しています。そういった多種多様なニーズをワンストップで対応できる点も同社の強みでしょう。需要が拡大している生鮮食品配送向けの冷蔵・冷凍車対応にも取り組んでおり、中長期的な競争力の維持が期待されますね。
出所:会社資料より、一部抜粋
下記図で業務用運搬車両事業における『獲得できる可能性のある最大の市場規模』の内訳を見ると、配送目的が多いようですね。その点同社はWalk-in Vanで確立した高いシェアから今後も継続的に恩恵が受けられそうですね。
出所:会社資料より、一部抜粋
次に、もう一つの稼ぎ頭『特殊車両』事業についても深堀してみましょう。下記図にあるように、特定のセグメントにおいて同社は大体1/4のマーケットシェアを有し、業界をリードしています。また、下図の右にある「Spartan Chassis」のSpartanは、Shyft Groupへ名称変更する前の社名ですので、同一企業になります。
出所:会社資料より、一部抜粋
特殊車両事業における、マーケット全体の『獲得できる可能性のある最大の市場規模』を見てみるとモーターホームの市場規模が大きいみたいですね。コロナ禍なのでステイホームでつまらない毎日ですが、家が動けば問題解決と言わんばかりに、モーターホームで楽しく密回避して自然を満喫なんてノリなのかもしれません。
出所:会社資料より、一部抜粋
同社ではモーターホームのシャーシなんかも供給しているみたいですね。2015年対比でマーケットシェアが足元倍近くまで伸びているので、やっぱりモーターホーム需要はコロナ禍で追い風のようです。私も早く引退してモータホームで山に籠り仙人生活したくなってきました・・・下記プレゼンによると、どうやらご年配の世代からの引き合いが強いそうなので、コンセンサスに合わせて私ももう少し頑張って働きます!
出所:会社資料より、一部抜粋
何となく事業内容も分かってきたと思いますので、同社を取り巻くマクロ環境と成長ストーリーについても触れてみましょう。同社事業の主力である『業務用運搬車両』事業において、主要な顧客基盤である配送業の動向に注目してみましょう。以前コンテナ運賃動向でも触れたように、コロナ禍ではいわゆる『巣ごもり需要』も追い風になって、元々メガトレンドであったeコマースの利用が世界的に加速しています。どんなにデジタルの世界が発達しても、最後に商品を届けるのはまだアナログの世界です。そんなラストワンマイルで活躍するのが同社のWalk-in Vanです。また近年の配送業界の動向をみると、大手顧客を中心にこれまでの大型配送センターを起点とした中型トラックによる配送から、消費者により近い中小規模の地域の配送センターから小型トラックを活用した柔軟な配送モデルに転換されてきており、その結果、他社からの乗り換えも含めて受注が拡大していることなど、構造的な要因も同社のシェア獲得に寄与しているようです。さらには、小型トラックは大型トラック比でコストも低いので、買い替え頻度の上昇に繋がる点も期待されているようです。
【世界の小売り額とEC小売り額の推移(推計値)】
注:EC小売り額は決済手段やフルフィルメント(商品受注から決済に至るまでの業務全般)の手法にかかわらず、インターネットを利用して注文された商品およびサービスを含む。ただし、旅行およびイベントチケットの販売、料金支払いや税金および送金、飲食店サービス、ギャンブルなどは除外。
出所:eMarketer "Global Ecommerce Update 2021"を基にジェトロ作成
地域的な成長戦略も着々と進めており、同社は小規模事業者をM&Aすることで、販売エリア・商品ラインナップを拡大し、米国の広いエリアをカバーすることが可能になっております。アマゾンからも一部受注があるようですが、米国全土でビジネスを展開している大手の顧客からすると、米国の広いエリアに同社の工場・施設があるのは助かりますよね。一方、以前フォワーダービジネスの解説をした際に調べましたが、陸海空の輸送手段で最も断片的なマーケットは陸上輸送のようです。ローカルの運送業者が幅を利かせている陸上輸送業界は今後M&Aなどを通して合理化されていくのかもしれません。そんな時、全米規模で対応できる同社の付加価値は大きいと思います。また、規模のメリットでシャーシなどの主要部品の調達で業界大手としてサプライヤーとの関係を強化することができるので、納品の短縮やコスト競争力の改善にもプラスに働くようです。
出所:会社資料より、一部抜粋
収益性の改善という点でも、同社は創業家から業務経験の豊富なプロ経営者を招聘することで、これまでの商慣習を見直し、収益の改善に貢献してきました。具体的には、製造技術・設備の改善によって、修理や保証費用が減少して、収益性が改善。部署やエリアで行っていた調達を全社で一本化し、非効率を排除。本社を優秀な人材が豊富なミシガン州に移転。警察や救急などの救急対応車両を含む赤字事業からの撤退等、マージン改善のために粛々と改善してきました。我が子の大好きな救急車が不採算部門なんて、子供には口が裂けても言えませんが・・・
【売上高と営業利益率の推移】
出所:ファクトセットより、ありがとう投信作成
加えて、最近の顧客の環境配慮の観点から、EVの需要が強くなっていくと予想されています。同社はもちろんEV対応にも柔軟に取り組んでおり、この点においても中長期的な競争力強化が期待できそうですね。
出所:会社資料より、一部抜粋
最後に長期の株価推移を見て終わりましょう。流石小型銘柄ですね。ボラティリティはかなり大きい様に見えますね。しかしながら、リスクに見合ったパフォーマンスを提供してくれているようにも見えます。長期投資家としてマーケットに居続けるには、こういった価格変動にも良い意味で慣れて、許容できるメンタルが必要なのかもしれません。こんな感じで今回はラストワンマイルから恩恵を受ける企業のお話でしたが、人生は100万マイル!長期投資は39億マイル!の気持ちで気長にコツコツやりましょう!
【長期での株価推移】
出所:ファクトセットより、ありがとう投信作成。株価と指数は1985年1月末を1として指数化、2021年8月末までの推移。外貨建ての株価と指数はすべて月次で邦貨換算した日本円ベース
【Introducing The Shyft Group】
39!
ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
◆記載内容について: 資料に記載されている個別の銘柄・企業については、あくまでも参考として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。
◆株価指数について:記載されている各国・地域市場の指数は特別注記が無い場合は以下の指数を使用しています。
【日本株】→FactSet Market Indices Japan 配当込み(税引き前配当再投資)
【世界株】→FactSet Market Indices World 配当込み(税引き前配当再投資)
【米国株】→FactSet Market Indices US 配当込み(税引き前配当再投資)
【欧州株】→FactSet Market Indices Europe 配当込み(税引き前配当再投資)
【新興国株】→FactSet Market Indices Emerging 配当込み(税引き前配当再投資)
関連記事
| トレンドTOPへもどる |