インフレとデフレについて<後編>
ところで、物価はどのように決まるのでしょうか?
一般的に物価が決まる要素としては、需要と供給、希少性、生産コストなどが挙げられます。沢山ものがある供給過剰の状態になれば希少性はないので物価は下がっていきますし、品不足の中で買いたい人が多い、需要過多の状態になれば物価は上昇していきます。
技術革新や生産量の増加で生産コストが下がることによって低コストで沢山の製品を生産できるようになると価格は下落していきます。例えば、デジタル家電であるTV、PC、カメラなどは技術の進歩が速いので、普及期になると性能が向上するだけでなく、価格も出始めの頃よりもどんどん安くなっていきます。当初数十万円した薄型大画面テレビが数年後には10万円を切る価格で販売されていたという例もあります。
日本は長らくデフレに苦しんできており、先進国でも低インフレになってきていますが、世界全体で見るとインフレ傾向であることには変わりありません。その背景には人口増加とそれによる経済成長があります。現在世界の人口は国連の推計で73億人おりますが、2050年には約100億人になるとされています。
そのため、食糧や資源価格の上昇は今後も続くことが想定されています。特に人口が増加すると考えらえれている新興国は上昇が続くと考えられています。一方で先進国については低インフレ傾向が続くと言われています。
その要因としては、グローバル化の影響で、新興国の人件費は中間所得層の増加で上昇する一方、先進国の人件費には低下圧力が続くものと考えられ、均衡点を探るような展開が想定されます。
例えば、企業が製品を生産する際に、人件費の高い先進国ではなく、人件費の安い新興国で作った方がコストが抑えられると考えるのは合理的な判断で、そのように行動する企業が増えるほど、先進国の人件費は上がりにくくなり、新興国は需要が大きいので徐々に人件費が上昇していくことが考えられるのです。
このようにグローバル化による構造的な問題もあって、金融緩和をいくら続けても日本はなかなか目標とするインフレ率に到達しないとも言われております。
続いて、資産運用におけるインフレ局面、デフレ局面で有利な投資対象は何かを考えてみましょう。
インフレ時には、物の価値が上昇してお金の価値が減少するので、株式、不動産、金(ゴールド)などの実物資産が有利であると考えられています。また、お金を借りている人(債務者)は返済する金額のお金の価値が減少するので有利になり、お金を貸している人は実質的に受け取れる金額が目減りすることになります。
反対に、デフレ時には、物の価値が下落してお金の価値が上昇するので、現金や預金、お金を貸している人(債権者)は有利になり、お金を借りている人は実質的な返済負担が増すことになります。
デフレ時には投資せずにお金で持っている方が得をしますので、投資にお金が回らず企業活動は停滞し経済はますます成長しなくなってしまいます。このように資産運用においてはインフレ時とデフレ時では有利な投資対象が正反対になります。
日本の政府債務残高は1000兆円を超えて国際比較でも最悪の水準ですが、これは個人で言えば多額の借金をしていることと同じです。そのため、デフレになると実質返済額が増加していくので、デフレから脱却してインフレにしていくことは、債務返済負担を軽減する効果もあるので日本の財政健全化の観点からも重要になっています。
IMF(国際通貨基金)の見通しでは、世界経済は今後も3~4%の経済成長をしていく見込みで人口も増加していきますので、世界経済の成長を享受できるように資産運用をしていくことが大切になってきます。一方で、日本経済についてはデフレから脱却していくことができるのか、経済成長が持続的にできるのか、少子高齢化で人口が減少していく中でそれが可能であるのかが資産運用の投資対象を考える上で大きなポイントになってくるのではないかと思われます。
最後に別の角度から資産運用をする目的について考えてみましょう。
資産運用は資産を増やしていくことをイメージされる方が多いのではないかと思いますが、資産運用には実はもう一つ大きな目的があります。それは、インフレから資産を守ること、すなわち資産保全(資産防衛)です。
資産運用というとかつては資産家や富裕層を対象としたものでしたが、彼らは何世代にも渡って資産を引き継いで来ましたので、増やしていくことも大切でありますが、減らさないという点も大変重要でした。当然、実物資産も含めて様々な資産に分散投資して資産を守っていく必要がありました。
現代の日本に暮らしていると実感はありませんが、例えば、戦争に負けて、通貨の価値が下落したり、無価値になってしまったり、土地や財産を没収されてしまうようなこともありました。そのため、どのように資産を守っていくかというのは資産運用していく上でとても重要なことでした。
このように資産運用には増やすという攻めだけでなく、減らさないという守りの側面もあることを覚えておきましょう。
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