日本のことはそれほど・・・<月次レポート2017年9月より>
皆様、いつも大変お世話になっております。今月のありがとうトピックスでは、資産配分について考えてみたいと思います。
私は数年前からとある大学の会計学科目の講師をしていまして、私のクラスを受講した卒業生も増えてきました。先日、今年社会人になった教え子から久しぶりに連絡がありました。入社した会社で企業型確定拠出年金(DC)に加入したそうで、投資対象のファンドが30数本あり、どれを選ぶべきかという相談でした。とりあえずファンドを選ぶ前に、資産配分(株、債券、REITなどの区分け)、国別配分(国内、海外などの区分け)を考えるようアドバイスしました。そうすると、彼(教え子)は『自分は日本人なので円資産に投資したいが株は怖いイメージがあるので、日本国債と定期預金での運用がベストでしょうか?』と聞いてきました。何がベストかと言われれば、その人のリスク許容度にあった選択がベストだと思うので簡単に答えることはできませんが、良い機会なのでいくつかヒントをあげました。
日本人なので円資産に投資したいが株は怖いイメージがあるので日本国債と定期預金で運用とは少しさみしい気がします。とくに22歳の新卒社会人としては・・・。まず定期預金の金利は足元高くても0.1%程度ですので、たとえ定年までの43年間同等の金利で運用しても減りはしませんがほとんど増えもしません。また、日銀のマイナス金利導入によって定期預金の金利は下降傾向にあり、そのうち個人の普通預金口座からも利息を取るといった話も決して笑い話ではありません。現にマイナス金利導入後の2016年4月からファンドの現金部分については年率0.1%の利息が取られています。お金を貸して利息を取られてはたまりません。
それでは日本国債はどうでしょうか?バブル崩壊後失われた20年間で企業への貸出を促進し、経済を立て直すべく日本では長い間金利を低くする政策がとられてきました。金利と債券価格は逆に動きますので、金利が下がり続けて債券価格(ここでは日本国債の価格)は上昇してきました。さらに2013年4月からは日銀が年60兆円規模、2014年10月からは年80兆円規模で日本国債を買う大規模な量的緩和政策が実施されていて、日本国債の価格は大きく上昇してきました。この流れは今後も続くのでしょうか?まず金利については既にほとんどない又はマイナスという状況で、金利が上昇しなくとも下げ続けること(債券価格は上昇)は想像し難いと考えます。また、日銀の日本国債購入に伴う債券価格上昇については、図1を見て頂くとわかるように既に日本国債の約40%程度を日銀が保有している状況で、40%という保有割合が異常である上に、今後も年80兆円規模で買い続けるのであれば、後数年ですべての国債を保有することになります。これはそうそう継続できるものではないと考えますので日本国債は長期投資の対象としては非常にリスクが高いと考えます。
▼図1:日銀の日本国債保有割合は約40%を超える・・・
出所:ファクトセットよりありがとう投信計算
次に株は怖いイメージがあるので手を出したくないという点についてですが、確かに価格変動率をみると債券に比べ株は上下に振れます。その点ハラハラドキドキさせられるという怖いイメージがあるのは確かです。しかし上下はしますが、長期で見れば株は右肩上がりで伸びてきました。これは世界の経済規模(人口増、消費増、それに伴う生産活動増など)が拡大していく中で競争力のある企業の業績が伸び、それに伴い株価も伸びてきたからだと考えます。競争力のある企業をどう定義するかは色々と議論はあると思いますが、単純に各国企業のROE(自己資本利益率)を比較した図2を見て頂くと、相対的に見て日本企業の利益率より海外企業の方が高いことが確認できると思います。現に米国など世の中をリードするような企業をたくさん輩出する国では、株価は最高値を更新し続けて成長してきました(図3参照)。この点は、日本の代表的な指数である日経平均株価が1989年12月29日に付けた最高値3万8916円を長年更新できないのを見ても納得頂けると思います。確かに株は値動きが大きく怖く感じたり、バブル以降の日本株を見てきた方々とっては、特に日本株=株というイメージが根強いと思います。しかしながら、投資家は変化していく世界経済の環境に柔軟に対応し、企業利益を向上できる企業の株を評価して買うため、日本企業にこだわらず世界中の企業から成長性を見極めて投資すれば長期での値上がりは期待できると考えます。以前月報で紹介したサムスン電子(韓国)、アマデウスITグループ(スペイン)などは良い例だと思いますのでご参照いただければと思います。
▼図2:ROEだけ見ても日本の利益率は他の先進国比で低い→株価も同様相対的に低調なパフォーマンス
出所:ファクトセットよりありがとう投信計算、株価(円ベース)は2000年1月末を10,000として指数化、
2017年は8月末までの推移
▼図3:主要株価指数は最高値を更新し続ける。出遅れていた新興国株も最高値圏へ・・・日本株は・・・
出所:ファクトセットよりありがとう投信計算、最高値は2017年8末までの最高値
また、日本株については相対的に低調な企業業績以外にも不安要素があると考えています。それは日銀のETF(上場投資信託)買い付けです。日銀の買い付けは2010年12月から始まっていますが、特に去年の8月から増額された年6兆円規模買い付けの日本株市場全体に与えた影響は大きいと考えます(図4参照)。図5で見られるように、良くも悪くも日本株と為替(ドル円)の推移はそれなりにリンク(円安→株高)していましたが、年6兆円規模の買い付けはそういったドル円との相関を低下させ、株価自体を支えているようにも見受けられます。これは買える間はいいのですが、買えなくなった時の株価に対するネガティブな影響は小さくないはずです。株は企業業績の良し悪しで売買されるだけではなく、当然業績に関係なく買う人が多くいれば株価は上がるといった需給の影響も反映します。よって、日銀という買いオンリーの存在は長期的には不安材料になると考え、日本株についても長期投資の対象としてはリスクが高いと考えています。
▼図4:下げた日に買付けるため評価益は出ている様子だが、問題は一度始めたら止められない、売れないという点 →国内ETF市場に占める日銀のシェアは約70%まで拡大している・・・
出所:ファクトセットよりありがとう投信計算、評価益はありがとう投信推計値、2017年7月末までの推移
▼図5:平均約721億円の買い付けを88日(回)した・・・他に使い道はあるような気もしますが・・・
出所:日本銀行ホームページ、ファクトセットよりありがとう投信計算、2017年8月末までの推移
といった具合に日本国債と日本株の話をすると日本国債と定期預金以外の選択肢もおのずと見えてくると思います。こんなことばかり言っていると日本の将来に対して悲観的過ぎると思われるかもしれませんが、私個人としては海外留学などを通して外から日本を見てきた経験などから、様々な点で日本は恵まれたすばらしい国だと思います。特に私は高校卒業後板前をしていた経験もありますので、日本料理一つとっても世界でとびぬけて優れた文化だと信じております。ただ、お客様の大切なお金を預かり、運用する立場としましては、競争力のある企業が多く育つ国・地域に投資割合を増やし、金融政策の不透明な国に対しては必要以上の投資を避ける、国際・資産分散投資がベストなソリューションだと信じて実践している次第でございます。
ありがとう投信株式会社
ファンドマネージャー 真木喬敏
関連記事
| 運用者メッセージTOPへもどる |