【今月のFP情報コラム】「配偶者居住権」で後悔しないために【後編】(2023年3月)
配偶者居住権のデメリットとは
しかし、配偶者居住権には、メリットばかりではなくデメリットもありますので、それを認識したうえで利用を検討することが重要です。
まず、配偶者居住権が設定された自宅は売却できません。配偶者が事情により施設に入ることになった場合、自宅の所有権を相続していれば売却することによって入居資金を作ることもできますが、配偶者居住権ではそのような方法をとることができません。配偶者居住権はあくまで「家に住む権利」であるため、譲渡したり、売却したり、所有者の許可なく賃貸したりする権利ではないからです。
また、配偶者が居住権の権利を放棄するという場合には、自宅の所有者となった子供に対してみなし贈与をすることになり、贈与税が課税されるリスクも生じます。したがって自宅の所有権を取得した子供は、居住権を持つ配偶者が死亡しない限りは事実上譲渡・売却ができないことになります。
その他にも、配偶者居住権を利用できるのは、相続が発生した時点でその自宅に住んでいた法律上の配偶者に限られること、取得した配偶者居住権を第三者(例えば,居住建物を譲り受けた方)に主張することができるようにするためにできるだけ早く登記手続をする必要があるなどの設定要件や、固定資産税や修繕費などの必要費を配偶者居住権の取得者が負担しなければならないなどの注意点があります。
配偶者居住権は、相続発生時に必ず設定すべきものではありません。あくまでも、遺言や遺産分割を通じて任意に設定されるものです。では、どのような時に利用したらよいのかを見ていきましょう。
1.相続分割に争いが予想される場合
家族関係が良好であれば問題はないのですが、配偶者と子が疎遠であったり、面識のない後妻の子や愛人の子(非摘出子)と遺産相続で揉めることは少なくありません。そのような際には配偶者の住居を確実に確保し、争いを解決するために配偶者居住権の利用を検討しても良いでしょう。
2.相続財産の大半を自宅の土地建物が占めている場合
預貯金などが少なく、遺産の大半が自宅の土地建物というケースはよくあります。このような場合には、配偶者居住権を設定することで、自宅不動産の価値を所有権と居住権に分けることができます。配偶者が居住権を相続することにより、居住する自宅を確保し、老後の生活資金もできるだけ確保するような解決策が見込めます。
以上、配偶者居住権について解説してきましたが、配偶者と子どもに普段から交流があり、家族の関係性も円満である場合には、「配偶者居住権」をあえて利用する必要性は小さいと考えられます。子どもが自宅を相続しても配偶者が住み続けられるように無償で貸したり(使用賃貸)、配偶者が法定相続分を超える遺産を取得することにも同意してくれるなど比較的柔軟に遺産分割の手続きを進めることができるためです。
配偶者居住権は、配偶者の住居を確保しつつ、バランスのよい遺産分割を行うために活用すると効果的ですが、デメリットを理解せず利用してしまうと「こんな事になるなら、自宅を単独で相続した方がよかったのでは...」と後悔することになってしまうかもしれません。
配偶者居住権の利用がメリットになるかデメリットになるかは人によって異なります。配偶者居住権の設定にあたっては、法律と税務の両面から慎重な検討が必要なりますので専門家へご相談ください。
なお、配偶者居住権の詳細については法務省のホームページでご確認いただければと思います。
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