<FPコラム>老後のお金シリーズ~企業年金制度について(5)DC活用の注意点(後編)
次に、3つ目のDCの特徴については、60歳まで引き出しができないことです。この点に関してはメリットでもありデメリットでもあると言えます。
まずはメリットですが、60歳まで引き出しができないことによって、老後に向けた資産形成を計画的に実行できる点です。長期・積立・分散投資をDCの仕組みを使って自動的に実践することができます。特に価格変動リスクのある資産に投資してい運用している場合、人間の心理としては相場が大きく下落した今回のコロナショックのような時には、解約してお金を引き出したくなるものです。資産運用の経験がない人や少ない人であればなおさらです。
しかし、DCの場合は将来の年金資産として運用しているので自分のお金ですが、自由に引き出すことができず、DC口座内でスイッチングはできますが、ほって置くことしかできないので感情的な投資行動を抑制し、資産運用の王道から外れることなく老後資産形成を続けることができるのは大きなメリットであると考えられます。
一方デメリットですが、人生では将来何が起こるかわかりません。失業したり、病気になったり、事故にあったりしてまとまったお金が必要になる場合もあります。老後資金も大事ですが、お金がなくて明日の生活に支障がでるようになっては本末転倒です。緊急時にも積立してある自分のお金を引き出せないのは大きなデメリットです。例えば、急に失業して生活費に困ってしまったときに、DC年金資産が100万円あったとしても引き出すことはできないので他から工面をしなければなりません。一時的に借金しなくてはならない状態になっても引き出せないのは大きな制約でありデメリットだと感じるでしょう。
別の観点で考えると自由に引き出せないことを流動性が低いと言います。流動性は好きなときにいつでもお金を引き出せるか換金できるかどうかで高い低いが決まり、金融商品の中で預貯金は流動性が一番高く、上場株式、ETF、追加型投信はいつでも売買できるので流動性は比較的高い方ですが、投信でもクローズド型のファンド(一定期間解約できない)や年金保険商品は解約が一定期間制限されたりペナルティがあるので流動性は低くなります。さらに、非上場株式はすぐに売却ができなかったり、譲渡制限されていたりして流動性はかなり低くなります。通常、流動性が低い商品は他よりもプレミアムが大きくないとわざわざ誰も投資しません。DCの税制優遇制度は流動性の低さと引き換えのプレミアだとも考えられるでしょう。
このように、60歳まで引き出せないことはメリットでもあり、デメリットでもありますが、大切なことは老後のための資産形成という目標を立て、無理のない金額で計画的に積立していくことです。そのため、1ヶ月の家計収支の中からどのくらいの金額を将来のために積み立てればよいのかライフプランニングをしっかり行うことが大切です。
リスク許容度を超えた金額を投資をしてしまうと相場下落時に怖くなって投資を続けられなくなるのと同様に、節税メリットに釣られて予算以上の金額を流動性のないDC年金に拠出すると生活が苦しくなったときに家計が回らなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。家計毎に異なりますが、老後資金を貯める場合には、DC(iDeCo)だけにするのではなく預貯金や課税口座など複数の手段に分散するのがよいでしょう。例えば、万が一のときの生活防衛を考えると、20代の単身世帯の場合、緊急時に必要なお金(3か月~半年分の生活費+50~100万円程度)は預貯金で確保した上で、それ以外に将来に向けて毎月積立できる金額の50%はDC、残りは課税口座やNISA口座などを活用することでいざという時に取崩しや換金ができるようにリスクヘッジしておく方法が考えられます。(例:将来のための積立可能額が1万円の人の場合、半分の5000円はiDeCo、残りの5000円は課税口座などを活用する)
尚、緊急時に必要なお金の金額や積立割合は収入や年齢、資産、家族構成、リスク許容度などお客様毎によって大きく変わってきますので正解があるものではありません。ライフプランを立てる際によく考える必要があります。また、状況が変化した場合には、定期的な確認と必要に応じた見直しをしていく必要があるでしょう。
最後のDCの特徴は手数料負担があることです。この点に関しては、企業型DCは企業負担なので、これは主に個人型DC(iDeCo)について関係してきます。
iDeCoでは、制度に加入しているだけで年間手数料が最低でも約2000円かかります。運営管理機関(金融機関)によっては高いところだと約7500円もかかるところがありますので、どの運営管理機関を選ぶかで負担が変わってきます。この手数料はDC制度に加入しているだけでずっとかかってくるものです。日本では金融機関に口座開設して口座を保有するだけではお金がかからないのが普通なことを考えれば、この手数料負担は大きなデメリットであると言えるでしょう。
この手数料の内訳は運営管理機関手数料、事務委託先金融機関(信託銀行)手数料、国民年金基金連合会手数料の3つがあり、このうち加入者の場合、事務委託先金融機関手数料は月66円(年792円)と国民年金基金手数料は月105円(年1260円)は一律でかかります。運営管理機関手数料は安いところは無料~高いところは月458円(年5496円)になっていますので運営管理機関選びは大切です。
このようにiDeCoでは、加入者で毎月拠出する場合には最低でも年間2052円は手数料がかかってしまいます。これ自体はデメリットですが、掛金の全額所得控除のメリットを受けて手数料負担を相殺できれば税制優遇のメリットを受けながら老後資産形成をしていくことができると考えられます。ポイントは税制優遇メリットが手数料負担を上回ることです。iDeCoの場合は5000円以上1000円単位での拠出なので、年間の拠出合計額に対して自分の税率(所得税+住民税の合計)を掛けて算出金額が手数料金額以上になるように掛金を拠出する必要があるでしょう。(例えば、年間の掛金合計が6万円の場合、自分の所得税と住民税の合計税率が15%なら概算で9000円の節税効果が見込まれるので、手数料が9000円未満ならメリットがあることになります)
ここで問題になるのは専業主婦のように所得がない加入者についてです。
この場合は掛金の全額所得控除のメリットを受けることができませんので手数料負担はダイレクトにかかってくることになります。そのため、専業主婦の方は、加入するかどうかよく考える必要があります。特にiDeCoで元本確保の預貯金しか保有しない場合は、ゼロ金利でほとんど増えない上に毎年手数料だけ差し引かれていくので元本割れになって60歳まで引き出すこともできないのでメリットがほとんどありません。預貯金しか保有しないなら、iDeCoに加入せずに普通に預貯金口座で老後資金を貯めた方がよいとも考えられるでしょう。
しかし、過去に企業型DCに加入していて、子供が小さい間だけ一時的に専業主婦になっていて、また働く予定があったりする場合には、専業主婦でもiDeCoに加入して掛金を拠出することで通算拠出期間を延ばすことができ、将来一時金でもらうときに退職所得控除額を増やせるメリットもあります。また、仮にずっと専業主婦である場合でもiDeCoでしっかりと長期・積立・分散投資を実践して老後資産を形成していくのであれば、手数料負担もあり所得控除のメリットがなくても、他のメリット・デメリットを考慮してiDeCoを活用することを検討してもよいでしょう。
また、専業主婦以外でも注意が必要なケースは、所得はあるけれどもすでに他の税制優遇制度で最大限まで所得税の還付を受けている場合です。典型的な例は住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)になりますが、既に住宅ローン控除減税をフルに使って所得税の還付を最大限に受けている場合(減税後の所得税の支払額がゼロのケース)では、掛金の所得控除の節税メリットをすべて受けることができない場合がありますので注意が必要です。(住宅ローン減税されても所得が大きくて所得税を支払っている人には掛金拠出による所得控除のメリットはあります。)なお、個別の具体的な税金計算については、税務署や税理士などの専門家にご相談していただければと思います。
以上、少し長くなりましたが、DC活用における注意点について見てきましたがいかがでしたでしょうか。
老後資金を形成していくための制度として、特に個人型DC(iDeCo)は税制優遇措置が強調されて注目されておりますが、ベースは企業年金制度なので通常の課税口座での資産運用とは大きな違いがあります。DCにはメリットもあればデメリットもあるので、年金受取時の出口戦略や引き出し制限、手数料負担を考慮した運営管理機関選びやライフプランに基づいた拠出金額の決定など、後で後悔することがないようにしっかり検討してから始めた方がよいでしょう。
大切なことは制度を理解した上で資産運用の手段としてどのように活用していくかです。DCを老後資金のための資産運用の一つの選択肢と考えて、複数の手段を組み合わせながら、計画的に資産運用していくことがこれからの時代には求められているでしょう。
弊社では、お客様サービスとして資産運用の個別相談やライフプラン作成のお手伝いもさせていただいておりますので、お気軽にご相談いただければ幸いです! 次回のFPコラムもお楽しみに!
関連記事
| 39コンシェルジュTOPへもどる |