ありがとうの本棚(今月の一冊『残光そこにありて』)
残光そこにありて (単行本) 単行本 - 2025/6/20
佐藤 雫 (著)
本書は、江戸幕府の幕臣として、横須賀製鉄所の建設を主導するなど日本の近代化に大きく貢献した「明治の父」ともいわれる小栗忠順の生涯を描いた歴史小説です。
小栗忠順は、類い希な政治経済の才を持ったエリート官僚で、勘定奉行、外国奉行、軍艦奉行等を歴任し、激動の幕末期の困難な幕府財政を支えました。
黒船来航後の価値観が変化する動乱期において、日本に「関税」という概念を導入したり、横須賀製鉄所の建設を進言したりするなど、日本の未来を見据えた彼の行動力と、それが周囲に理解されなかった苦悩がリアルに描かれています。
遣米使節団の一員として渡米した際にワシントン海軍工廠を視察した彼は、製鉄や金属加工の技術力の日本との差に驚き、日本が目指す近代化の象徴として、工業技術力の結晶であるネジを1本持ち帰ります。そのネジに自分を重ね合わせ、「私は、百年後に生きる人にとってのネジであれたなら、それでいい」という強い意志を持ち、将来の日本のために尽力していくのです。単なる歴史上の偉人という面だけではなく、家族を愛し、家臣からも慕われた人間味のある側面も描かれているため感情移入しやすい作品になっています。
また、グローバル化、関税交渉、物価高や格差社会など...幕末と現代はよく似ていることがわかります。どちらの時代も、旧来のシステムが限界を迎え、新しい時代への移行期で、現代と比較しながら読むのも面白いかもしれません。そんな激動時代にあっても、目先の利益ではなく、100年先の日本の未来を見据えて行動し続けた彼の姿は、現代の政治や社会を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれます。
2027年放送予定の大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主人公としても注目されている人物に光を当てた作品です。ドラマをより深く楽しむために、ぜひ、この機会に読んでみてはいかがでしょうか。
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