百年に一度
「百年に一度の大不況」とか、「百年に一度の経済危機」とか、どうも最近この「百年に一度」が耳について仕方ありません。この表現、少し違和感がありませんか?
百年に一度と聞くと、「1930年代の大恐慌に匹敵する」という意味と考えざるを得ません。そう思うと、街にあふれる失業者の波や、食糧配給の行列に並ぶ人々の映像が目に浮かびます。もちろん先のことは分かりませんが、今の時点でそこまで言うのはまるで表現のインフレ、いかにも大袈裟です。
そもそもこれは、9月に米国のテレビのインタビューで、アラン・グリーンスパン前FRB議長が話した内容から引用されたものです。そのインタビューを読んでみると、「まず、今起きているのは五十年、いやもしかすると百年に一度というべき出来事」としたうえで、「百年に一度ともいうべき金融危機が、実体経済に深刻な影響を与えないはずがない。」と言っています。つまり、百年に一度なのは金融危機であって、経済への影響はこれからだ、と言っているわけです。
実際日本の金融機関は、今回の金融バブル期にはそれほど参加できなかったので、日本の問題は金融であるよりは経済そのものです。失われた十年の間に体力が消耗していたこともあって、寒風が身に沁みるといったところでしょう。それにしても、各国が経済を金融危機から守ろうと、兆円単位で必死の対策を打ち出しているところに、百年に一度の経済危機、と断じてしまっては、なんだか元も子も無いではありませんか。
確かに金融市場は、株価の急落のしかたを見ても、不良債権の規模を見ても、「百年に一度」の状態といってよいでしょう。しかし、金融と経済は密接だけれども同一ではありません。現在海外で準国有化が議論されているような、巨大金融機関を潰れるに任せておけば、1930年代のような恐慌になってしまうのかもしれませんが、世界中を挙げて取り組んでいる金融システムの安定化が、失敗に終わるというシナリオを、今のところ想定する必要はないでしょう。
世界の金融システムが、これで安心、というレベルまで安定するにはまだ少しかかるのかもしれませんが、その努力が続いている限り、景気の落ち込みはどこかで底をつき、回復してくるわけです。経済や市場を見る目は常に冷静に保ちたいもの。経済は少しインフレの状態が望ましいのですが、表現のインフレは…スポーツ紙だけにしてほしいですね。
ありがとう投信ファンドマネージャー 川元 由喜子
2009.3.13
川元 由喜子 - Yukiko Kawamoto -
一児のママのファンドマネージャーです。NY勤務の経験もあります。
日本の大手証券会社からスタートして、外資の運用会社での日本株運用責任者まで幅広く世界の金融を見てきました。元テニス部キャプテンですが、運用ではスマッシュ頼りではなく辛抱して球をつないでいきます。

