職人気質Ⅱ
今回は予告をした鮨屋さんのお話しです。
この鮨屋さんは今流行のグルメ番組に出てくる「親方」とは少々タイプが違います。店は路地奥にあるひっそりとした隠れ家風の店構え、L字型のカウンターのみ、(3畳程の小上り席があるが、今はお客の荷物置場となっている)7席ほど、(実際に7名が座ることはほとんどないがそれでも狭い)ほとんど黙して語らず、(愛想無用、媚び無用、チャラチャラサービス無用)の精神のようです。電話をしても屋号も名乗りません。ただ「ハイ、鮨屋です」電話をした人は一瞬「エ?」きっと思うはずです。
私自身この「すし職人気質」の親方に慣れるまで幾度となく挫折したことがあるのです。それこそ実直さを持って自信の技の鮨を握りますが、口に入るまで中々時間がかかるからです。カウンターに普通はある鮨ネタのケースがありません。注文のネタは奥の仕事場の冷蔵庫にあるようです。そこで仕事をし、カウンターの前へ持参し握る。刺身ならそこで盛りつけをするという次第です。接客精神より腕一本ということなのでしょう。しかしなんともいえない仕事をするその仕草に気質にもうほれているのかもしれません。食する者として精神の修養がいるのです(笑)食する道も奥が深いようです。そんな親方ですから、普段から無駄口など全くありません。したがって、客の素性をさぐるなども一切なく単々と、粛々と握っているのです。その黙々と仕事を続ける親方の姿、まさに迫力ともいえそうです。
ある日「いつものようにお願いします」とオーダーし、とりあえずビールを飲んでいる時のことです。親方が奥の方へ材料を取りに行った際に、のれんのはしが何かにひっかかり奥の仕事場が見えました。親方は何か書きつけた物の束を見ているようでしたが「何をしているのかな?」と思い、返答は期待せずに「親方何を見ているの?」と声をかけました。意外にも「お話しない分、お客様の以前注文していただいたものを書いてあるんでそれを見てるんですよ」
お客に気を遣ってるなんて様は全く見せないのに、当然と言えば当然だが、美味しい鮨を握る達人はやはり見えないところで「技」を使っている。そうだろうなと思うと待たされている時間の分だけ、その後に出てくるものへの期待が募り、「お母さん(親方のお母さん)ぬる燗一本お願い」と言ってしまう。しばらくするとお盆に銚子を乗せ「お待たせ」とお母さんがぬる燗を持ってきてくれるのだが、その運んでくるお盆が上下に揺れヒヤヒヤ、ツイツイそのお盆を迎えに行ってしまう(ちなみにお母さん80ウン歳です)。このお母さんに会いたいのもこの店に通うもう一つの目的。その意味ではこのお母さんの職人気質もなかなかのものなのです。「まだできないの」って親方を叱るんですから。
職人気質は様々ですが、万事能率の生活のなかで欠けている何かを感じさせ思い当らせてくれる、そんな行きつけの店をもっていることに感謝しながら、また、待たされ覚悟でいつ食べに行こうかと考えながら、今回も感謝、感謝です。


