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ありがとうコラム

職人気質Ⅰ

最近「しょくにんかたぎ」と読める人が少ないと聞きました。堅気の人ばかりになったせいでしょうか?自分の技術に自信と誇りを持ち、頑固だが実直である人のことを言います。職種を問わずに働く者の心構えの一つでありますが、自信を失わず、誇りを驕りと間違えず、実直さをへそ曲りにせずに、ひとつの道を極める事は大変難しいことです。それだけにそんな人に出会った時は己の未熟さはさておいて「この人いいな!」と思ってしまいます。

6月9日に夜たまたま鮨屋さんにいた時の話です。朝刊で盲目のピアニスト・辻井伸行さんが最難関といわれる「第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で日本人初の優勝というタイトルは見ていました。カウンターの右隣りの二人連れのお客さんは、その技術の素晴らしさについて語り合っていたが、専門的な話しすぎてよく内容は理解できない。(聞耳を立てているわけではなく、小さな店なので聞くとはなしに聞こえてくる)そのうち、こちらの先生もショパンコンクールで入賞されたんですよと、店のおやじさんに話しだした。ちょうどその時、店の電話が鳴り、おやじさんが出て 「ハイ、あっそうですか。ハイ、オメデトウゴザイマス、わかりました、8時ですね」おやじさんに話をしだしたお客さんがすかさず「もしかして辻井さんから」「ハイ、そうです。息子さんが帰ってきて、とにかく鮨が食べたいって。これから取りに来るって言うんです」そうすると、もう一人の別のお客さんが「そうそう。今日のワイドショーかなんかで、お父さんへのインタビューの中で話していたけど、伸行さんが食べていた鮨屋さんってここなの?」「ハイ、そうです」その方の話では、お父さんは「私の息子は鮨が大好きです。私は息子に小さな頃から常々、今はお父さんが働いて君に美味しい鮨を食べさせてあげているけど、将来は君も一生懸命働いて自分の力で鮨が食べられる様になりなさいと言ってきたんです」と答えていたそうです。

私はこの飾り気のない、そして生きていく目標を小さな盲目の子供に具体的に語りかけていた父親が座っていたであろうカウンターの席で思い浮かべながら目頭が熱くなりました。大変な努力と言葉に言い尽くせない忍耐とご両親の導き、無償の愛情につつまれて、この音楽道の達人として辻井伸行さんはピアニストとしての今があるような気がします。世界に広く、辻井さんのピアニスト気質が感動をもって伝わる気がします。素晴らしいことです。音楽の奏でる旋律で自分を実直に表現するその姿に感動します。生きている喜びが伝わってくるような気がします。そんな思いでゆっくりと「ぬる燗」を両隣のお客さんの話を「さかな」にしながらいただいておりました。

そうこうしているうちに、ピアニストのお父さんが息子の為にお鮨を取りにやってきました。(三人前です) 思わず面識などありませんが「おめでとうございます」とお礼を言うような姿勢で声をかけてしまいました。とにかく暗いニュース、イヤなニュースのオンパレードの中、本当に万雷鳴り止まぬ拍手、拍手。明るい爽快なニュースです。お父さんが「イヤ、ありがとうございます。息子が帰国して真っ先にこちらの鮨を食べたいと言うので、親方に無理を言って作ってもらいました。その分皆さんにご迷惑をおかけしました。(この間我々の注文は一時ストップ状態でしたが、誰も迷惑なんて思ってはいません)親バカでしょうか、皆さん祝福していただいて感謝しております」と和やかな口調でお話をしてくれました。「音楽道の達人」のお父さんもまた「人生の師」として達人だと思いました。「気質」を伝えることは難しいことですが、親として子供に生きるべく指針をきちりと伝えることができる事も「心の職人気質」だと思いました。お父さんは三人前の入った「すしおけ」を風呂敷に包んでもらい、待たせてあるタクシーへ足早に向かっていかれました。

次回はこの鮨屋さんの事を書かせていただきます。

梅雨時期のうっとうしさはありますが、この時期の雨も大切な「めぐみ」を与えてくれるのに必要なものだと思えば感謝!でしょうね。もう一言感謝

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