特別編3 裁判員制度 ~模擬裁判に行ってきました!~
『百聞は一見に如かず!』。裁判員制度の核心に迫るために、10月初旬に甲府地方裁判所で開催された模擬裁判を傍聴してきました。そこで今回は、本番さながらに行われたこの模擬裁判の様子を取り上げたいと思います。
◆事件の概要 判決を予想してみましょう!
◇被告人と被害者の関係
被告人山本純子(33歳)は、高校卒業後化粧品会社に3年程度勤めていたが退職、その後は水商売の経営に手を出したりホステスとして働いたりしていた。ホステスをしている時期に被害者池田吾郎と知り合い、愛人関係になり1年数ヶ月に渡り関係が続いていた。池田は若い頃暴力団に所属していたことがあり背中に刺青もあったが、今では建設会社の経営者として家族と普通に暮らしていた。当初は池田の羽振りが良く、1ヶ月に100万円位の援助があったが、最近では会社の業績が厳しく援助金額も減り、マンションの家賃15万円が賄える程度だった。被告人は愛人になってからは池田に働くなと言われていたため時間をもてあまし、水商売の経営に失敗した際の借金を取り返そうとバカラ賭博にはまっていた。借金は増えていく一方だったが、もらったお金をつぎ込んでいる後ろめたさから、池田には言えず内緒にしていた。最初の頃は優しかった池田だが、次第に酒を飲むと被告人に暴力をふるう性癖が出てきた。暴力はエスカレートし、前歯を折られるなどの重傷を受け病院にかかったことも数回あった。
◇犯行の状況
事件の日、池田は被告人の部屋を訪れた昼時点ですでにかなり酔っていた。7時頃2人で夕食に出掛け飲み屋を数件はしごし、真夜中頃被告人の部屋に戻ってきた。泥酔していた池田はいつものように暴力をふるいはじめた。被告人の髪を掴んで引きずり回し、体のいたる所を殴る蹴るの暴行を加えた。被告人の供述では、一連の暴行は1時間以上に及んだとのことである。さらに興奮した池田は被告人の顔に菜箸を突き付け、「ぶっ殺してやる」など脅迫した。生命の危険を感じた被告人は、もみ合いになりながら菜箸を取り上げ、台所にあった包丁でうずくまっていた池田の背中を一回突き刺した。しかしそれは致命傷にならず、池田は被告人から包丁を取り上げ、振りかざして再び被告人を脅した。包丁の取り合いになり、取り上げた被告人は池田の右胸を一回突き刺し殺害した。死因は右胸を刺した包丁の刃が肝臓にまで達したことによる失血死である。その後被告人は友人に連絡し、訪れた友人に促されて警察に電話で自首し逮捕された。
◆ドラマとは違う迫真の法廷!
模擬裁判とはいっても、細部にわたりかなりリアルに設定されていました。被告人や証人は司法研修生と思われる人達が演じていましたが、役者顔負けの好演でした。特に被告人役は時折涙を見せながら供述するなど迫真の演技で、その熱演ぶりに思わず引き込まれてしまいました。また、検察官と弁護士のやりとりは本番そのままの激しいバトルで、張りつめた雰囲気の中で互いの主張を交わしていました。中でも、検察官が民間企業のプレゼンのように、スクリーンに証拠写真やパワーポイントで作成した論拠などを写しながら分かりやすく説明していたのは、斬新で特に印象に残りました。
◆評議の様子
裁判官3名と裁判員6名の評議の様子は、模擬裁判ということでスクリーンで見ることができ、話し合っている内容や進行状況が良く分かりました。3日間という短期間で人の一生を左右する判決を出さなければならないため、この評議にかなりの時間が割かれていますが、途中「評議のスピードが速すぎてついて行くのが大変!」という裁判員の声もあり、裁判員の精神的な疲労が今後の課題と感じました。また、評議は裁判官主導という感を拭えませんでしたが、量刑を決める頃になると裁判員からも活発に意見が出てきました。しかし結局量刑を判断する決め手はこれまでの判例に頼るところが大きく、判例を参考にするあまりに自分の考えを曲げてしまう裁判員が多かったことは問題が残るところです。
◆あなたの判決は?
さて皆さんは冒頭の事件概要からどの位の刑を思い浮かべたでしょうか?検察側の論告求刑は懲役12年でしたが、言い渡された判決は懲役8年でした。被告人の殺意の有無、正当防衛・過剰防衛の適用、自首などの情状酌量、被害者の落ち度などが争点になりましたが、評議の過程で裁判員の中には無期懲役を推す人をはじめ、重い量刑を求める傾向が目立ちました。最終的な裁判員の意見は懲役8年が2人、それよりも重い懲役10~12年が3人という結果でした。それに比べ裁判官の意見は6~8年と軽く、殺人罪に対して厳罰を求める世間の風潮が強く感じられました。また「愛人」とか「暴力団」といった、判決とは直接関係のない背景も、裁判員が重い量刑を求めた一因とも感じました。もしこれが単なる夫婦喧嘩が原因だったら...?
今後本番に向けて、一般の感覚を裁判に反映させるという裁判員制度本来の意義が守れるかどうか、大きな課題ではないでしょうか。
※この文章は上野会計事務所さんが発行している冊子から特別編として転載させていただいております。

